My Heart Will Go On カバー音響設計|Synthesizer VとStudio Oneによる空間構築
セリーヌ・ディオンの名曲『My Heart Will Go On』を、宮舞モカ(Synthesizer V AI)の歌声とピアノのみでカバーしました。
この楽曲を制作するうえで目指したのは、原曲の再現ではありません。
私が和訳を読み、何度も原曲を聴き返しながら受け取った感情を、宮舞モカという歌い手に託して表現することでした。
映画『タイタニック』の壮大な愛の物語。その余韻を抱えながら、それでも前へ進もうとする意志。
今回は、その感情の流れを歌唱設計・空間設計・ダイナミクス設計の三つの視点から形にしています。
Vocal Design
メロ|記憶を語る声
楽曲冒頭では、過去を静かに振り返るような落ち着きを重視しました。
ボーカルスタイル
- Mellow:75%
- Cool:15%
- Breathy:15%
パラメータ
- Tension:-0.10
- Breathiness:-0.20
Mellowを大きく高めることで、モカの声を胸に響くような深い中低域へシフトしています。
一方でCoolを完全には消していません。
輪郭を少し残すことで、宮舞モカ特有の凛とした美しさを保っています。
Breathyは控えめに加え、息遣いによる空気感を補強。
大きな感情表現ではなく、静かに思い出を語りかけるような歌唱を目指しました。
サビ|感情が動き始める声
サビでは感情を少し前へ進めています。
ボーカルスタイル
- Mellow:55%
- Powerful:20%
- Cool:15%
- Breathy:10%
パラメータ
- Tension:-0.05
- Breathiness:-0.20
Mellowによる落ち着きは維持しつつ、Powerfulを追加。
ただし力強く歌うことが目的ではありません。
感情が少しずつ溢れ始める、その微細な変化を作るための設定です。
Breathyも少し減らし、声の密度を高めています。
メロから自然につながりながらも、聴き手が無意識に感情の変化を感じ取れるよう設計しました。
ラストサビ|想いの解放
この曲最大の見せ場です。
ボーカルスタイル
- Powerful:65%
- Cool:25%
- Mellow:20%
- Breathy:5%
パラメータ
- Tension:0.00
- Breathiness:-0.20
ここではPowerfulを主役に据えています。
A♭への大転調とともに、これまで内側に抱えていた感情を一気に解放する構成です。
一方でCoolも25%まで引き上げています。
Powerfulだけを高めると、高音域が幼くなりやすいためです。
Coolを加えることで、高音域に気高さと透明感を残し、セリーヌ・ディオンが持つ堂々とした佇まいを意識しました。
MellowとBreathyは大きく引き算。
ロングトーンをまっすぐ響かせるため、声の芯を優先しています。
Piano & Vocal Balance
ピアノもまた主役である
Vocalis Dynamicsでは、ピアノを単なる伴奏として扱っていません。
弾き語り作品である以上、歌声とピアノはどちらも主役です。
今回のフェーダーバランスは以下の通りです。
ピアノ
- +1.0 dB
- Pan L65 / R65
宮舞モカ
- -1.0 dB
- Pan Center
一般的なカバー作品では、ボーカルを前へ押し出すために伴奏を下げることも少なくありません。
しかし今回は、ピアノが持つ広大な空間感と倍音の美しさを残すことを優先しました。
歌声とピアノが同じ物語を語るためのバランスです。
Equalizer Design
ピアノの居場所を作る
今回使用したピアノは、普段のバラード作品でも使用している基本設計をベースにしています。
主な調整
- 100Hz:-2.0dB
- 280Hz:-1.5dB
- 2.8kHz:-2.0dB
- 8kHz:+1.5dB
低域の濁りを整理しながら、高域の空気感を補強。
ボーカルのためのスペースを作りつつ、ピアノ本来の存在感は失わないよう調整しています。

宮舞モカのEQ設計
今回のテーマは、
「低域のふくよかな深み」と「高音域の気高さ」の両立
でした。
150Hz +1.0dB
胸の鳴りのような温かさを補強。
Mellow主体の歌唱を支えています。
350Hz -1.5dB
ピアノと干渉しやすい帯域を整理。
声を自然に前へ出します。
3.5kHz +2.0dB
今回の重要ポイント。
英語歌詞の子音やリンキングを明瞭にし、ピアノの音の壁を越えて届く存在感を作っています。
10kHz +1.5dB
ブレスや余韻の空気感を上品に広げるための補正です。
音圧を上げることなく、耳元で歌っているようなリアリティを加えています。

Reverb Design
小さな部屋で語る壮大な物語
今回選んだリバーブは、大ホールではありません。
Main Reverb
- Room
- Size:6.5m
- Pre Delay:18ms
- Length:1.10s
映画のテーマ曲だからといって巨大な空間を選ぶと、歌詞の繊細なニュアンスが失われてしまいます。
そこで今回は、少し上質な小部屋のような空間を選択しました。
歌声は近く。
余韻は自然に広がる。
その距離感を重視しています。
Asym 0.20
左右対称な人工的空間ではなく、現実の部屋らしい自然なばらつきを加えています。
わずかな設定ですが、リバーブが機械的にならない重要な要素です。
センド量の変化
ピアノ
-14.0dB
メロ
-18.0dB
サビ
-16.5dB
ラストサビ
-15.0dB
曲が進むにつれて、ボーカルを少しずつ深く空間へ送っています。
これは音量を上げるためではなく、物語のスケールを広げるためです。
ラストサビでは、歌声とピアノが一つの空間に溶け合い、作品全体が最も大きな景色を見せるよう設計しています。
Dynamics over Loudness
PLR 17.0 LU
Loudness Metrics
| Metric | Value |
|---|---|
| AVG. DYNAMICS (PLR) | 17.0 LU |
| LOUDNESS RANGE | 10.2 LU |
| INTEGRATED | -21.4 LUFS |
| TRUE PEAK | -4.4 dB |

今回の作品は、Vocalis Dynamicsの中でも特に大きなダイナミクスを持っています。
Integrated Loudnessは -21.4 LUFS。
現代の音楽作品としては非常に静かな部類です。
しかし、その静けさがあるからこそ、大サビで感情が解放される瞬間のエネルギーが生まれます。

音圧を競うのではなく、感情の振れ幅を残す。
それがVocalis Dynamicsの考える「Dynamics over Loudness」です。
Closing Notes
『My Heart Will Go On』は、失われた愛を歌う曲であると同時に、その記憶とともに生き続ける意志を歌う曲でもあります。
今回はその想いを、宮舞モカという歌い手に託しました。
もしこの作品を通して、原曲とはまた少し違う景色や感情を感じていただけたなら、これ以上嬉しいことはありません。