Cover Production

「変わらないもの」カバー音響設計|Synthesizer VとStudio Oneによる空間構築

『変わらないもの』カバー記事のアイキャッチ画像。夕暮れの街並みを望む部屋で、桜乃そらがグランドピアノを演奏しているアニメ風イラスト。
koshi
https://youtu.be/-J2Ky-5UiZM

「Vocalis Dynamics」では、過度な音圧競争から距離を置き、静かな時間に溶け込むような、質感豊かな音作りを追求しています。

今回は、映画の主題歌としても知られる名曲『変わらないもの』を、桜乃そら(Synthesizer V AI)の歌声とピアノ伴奏のみで再構築しました。

本作で目指したのは、単に静かなだけではなく、過去をそっと振り返るような、柔らかく包み込む空間です。

過度なコンプレッションを避け、言葉の温度感や呼吸感が自然に届く距離感を軸に設計しています。


1. 歌唱のニュアンス|Synthesizer V設定

今回の桜乃そらは、感情を強く押し出すのではなく、懐かしさの中にある「静かな感情の揺らぎ」を表現することに注力しました。

Vocal Style

項目設定値
Soft50%
Adult30%
Sweet20%
Pop_Gentle10%
Cool10%
テンション+0.15
ブレス+0.25

Softを中心に据え、桜乃そら特有の柔らかく包み込む質感を優先しました。

そこにAdultとSweetを加えることで、透明感のある響きの中に、大人の落ち着きとそっと寄り添うような甘さを共存させています。

テンションをわずかに上げ、ブレスを少し多めに設定することで、言葉の輪郭が静かな伴奏に埋もれず、自然な呼吸感として届くよう調整しました。


2. 空間の整理|Studio One ミキシング

『変わらないもの』では、ピアノの余韻と歌声がどれだけ自然に共存できるかが重要でした。

歌声を無理に前へ押し出すのではなく、ピアノ側とボーカル側のEQを噛み合わせ、同じ部屋で演奏しているような距離感を目指しています。

Piano EQ

BandSettingIntent
Low Cut65Hz / 12dB Oct不要な超低域を整理
LF Shelf180Hz / -2.0dB低域の膨らみを抑制
LMF450Hz / -1.5dB / Q1.0中低域の濁りを整理
MF1.2kHz / +1.0dB / Q0.8ピアノの輪郭を補強
HMF3.5kHz / -3.0dB / Q1.2歌声の明瞭度帯域を空ける
HF Shelf8kHz / +1.5dB空気感を追加
High Cut14kHz / 12dB Oct不要な超高域を整理

桜乃そら EQ

BandSettingIntent
Low Cut85Hz / 12dB Oct不要な低域を整理
LF Peaking220Hz / -1.5dB / Q1.2低域の重さを抑制
LMF650Hz / +1.0dB / Q0.8声の温度感を補強
MF1.5kHz / -1.0dB / Q1.0硬さを抑える
HMF3.5kHz / +1.5dB / Q1.0言葉の明瞭度を確保
HF Shelf10kHz / +2.5dB透明感と空気感を追加
High Cut18kHz / 12dB Oct超高域を整理

EQの設計意図

特に重視したのは、3.5kHz周辺の処理です。

ピアノ側を-3.0dB抑え、桜乃そら側を+1.5dB持ち上げることで、歌声の明瞭度と言葉の通り道を確保しています。

また、ピアノの中低域を少し整理し、桜乃そらの650Hzや10kHz以上を活かすことで、柔らかさと透明感が自然に前へ出るよう調整しました。


Positioning|定位と距離感

TrackPositionReverb Send
PianoL75% / R75%-14dB
桜乃そらCenter-16dB

今回は、左右に広く展開するDual L75% / R75%の定位を採用しました。

中央に立つ桜乃そらを、ピアノの響きが優しく挟み込むような構造です。

思い出の風景がゆっくりと目の前に広がっていくような距離感を目指しました。


3. 空気感の設計|Reverb

歌声とピアノが、同じ静かなアコースティック空間に存在するように、Roomタイプのリバーブを使用しています。

CategoryParameterSetting
MainPre-delay25.0ms
MainLength1.60s
MainMix1.00
RoomTypeRoom
RoomSize6.00m
RoomWidth0.90
RoomHeight0.60
CharacterPopulation0.20
CharacterReflexivity0.35
CharacterDampness50.0%
GeometryDist0.35m
GeometryAsym0.00
GeometryPlane0.50
QualityHQ ModeON

Lengthは1.60sに設定し、バラードらしい余韻を残しています。

反射音は強くしすぎず、過度に広がる空間ではなく、木壁の小さな部屋のような温かみを意識しました。

ピアノ側をやや多めにリバーブへ送り、空間の土台を作ります。

一方で、桜乃そらの歌声は少し控えめに送ることで、中央の存在感を保ちながらも、自然に空間へ溶け込むようにしています。


4. 楽曲の仕上げ|Mastering

Limiter Settings

ParameterSetting
Gain+3.2dB
Ceiling-1.0dB
Threshold-1.0dB
ModeB
AttackNormal
Release400.0ms

リミッターは音圧を稼ぐためではなく、安全装置として使用しています。

Releaseを400msと長めに設定することで、ピアノの余韻やブレスの消え際が不自然に揺れないよう、滑らかに制御しました。


5. Loudness Metrics|客観的な「響き」の証明

『変わらないもの』カバーのラウドネス測定結果。Integrated Loudness -16.0 LUFS、LRA 9.2 LU、PLR 14.9 LU、True Peak -1.1 dBを示すYoulean Loudness Meterの測定画面。

※ Integrated / LRA / PLR / True Peak が見える画像

『変わらないもの』カバーのダイナミクス分析。PLR 14.9 LUとLRA 9.2 LUを示し、楽曲全体のダイナミックレンジの推移を可視化したYoulean Loudness Meterの測定画面。

※ ダイナミクスの推移が見える画像

Powered by Youlean Loudness Meter 2

項目測定値音楽的な意味
Integrated Loudness-16.0 LUFS聴きやすさを保った音量感
Avg. Dynamics / PLR14.9 LU音を潰さず、自然な抑揚を維持
Loudness Range / LRA9.2 LU静かな部分と盛り上がる部分の差を確保
True Peak Max-1.1dB配信時の歪みを避ける安全設計

測定値に対する考察

本作では、Integrated Loudnessを-16.0 LUFSに整えつつ、Avg. Dynamics / PLRは14.9 LUとなりました。

Vocalis Dynamicsが一つの目安としているPLR 15.0 LUに非常に近い値であり、過度な圧縮に頼らず、歌声とピアノの自然な抑揚を保てていることが分かります。

LRAは9.2 LU。

極端に大きな起伏ではありませんが、静かな場面からサビへ向かう感情の広がりを十分に感じられるバランスです。

True Peak Maxは-1.1dBで、YouTubeなどの配信プラットフォームでの再エンコード時にも余裕を持たせた設計になっています。


結び

制作におけるラウドネス数値は、音を大きくするための指標ではありません。

届けたい言葉の温度や、情景との距離感を整えるための設計図です。

『変わらないもの』では、桜乃そらの柔らかな声質と、ピアノの余韻が自然に溶け合う空間を目指しました。

夕暮れの帰り道に、ふと過去を思い出すような、切なくも温かい時間。

その空気が、歌声とピアノの呼吸感から少しでも伝われば幸いです。

一つの音響設計の記録として、ここに残します。

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