「永遠にともに」カバー音響設計|Synthesizer VとStudio Oneによる空間構築
「Vocalis Dynamics」では、静かな時間に自然と溶け込むような、質感豊かな音作りを追求しています。
今回は、公開した『永遠にともに』の制作工程を、Synthesizer Vでの歌唱設計からStudio Oneでの空間構築まで、実際の数値とともにまとめました。
単なる“設定公開”ではなく、
「なぜその音になったのか」を記録した、音響設計ドキュメントです。
現在の配信環境では、過度な音圧競争を行っても、最終的にはラウドネス正規化によって均一化されます。
そのため本プロジェクトでは、音量そのものではなく、ダイナミクスによる感情表現を優先しています。
Vocal Design|Synthesizer V 歌唱設計
今回の『永遠にともに』では、二人の声が競い合うのではなく、互いを支え合いながら並び立つバランスを重視しました。
各セクションごとに Breathy / Power / Mellow などの要素を細かく調整し、感情の距離感や、言葉の温度感を設計しています。
ボーカルスタイル設定表
| セクション | 弦巻マキ | 宮舞モカ |
| A・Bメロ | Adult 50% / Breathy 50% Power_Pop 30% / Whisper 15% ブレス +0.4 | Soft 35% / Mellow 35% Cool 70% / Breathy 30% ブレス +0.35 |
| サビ | Adult 50% / Breathy 40% Power_Pop 40% / Twangy 10% Whisper 15% / ブレス +0.25 | Soft 25% / Mellow 35% Powerful 30% / Cool 60% Breathy 30% / ブレス +0.15 |
| Cメロ | Adult 55% / Breathy 45% Power_Pop 35% / Twangy 5% Whisper 20% / ブレス +0.45 | Soft 40% / Mellow 45% Powerful 10% / Cool 75% Breathy 35% / ブレス +0.35 |
| ラストサビ | Adult 60% / Breathy 40% Power_Pop 60% / Whisper 15% ブレス +0.2 | Cheeky 10% / Soft 25% Mellow 35% / Cool 60% Breathy 30% / ブレス +0.15 |
出力・レンダリング設定
チャンネル:モノラル
人間の声は一点から発せられるという物理的な自然さを優先し、センター定位で設計しています。
ビット深度:24bit / サンプルレート:48,000Hz
微細なダイナミクスや空気感を保持するため、CD規格を超える解像度でレンダリングしています。
Sound Architecture|Studio One ミキシング
ピアノと二人の歌声、それぞれの「居場所」を作るための周波数設計です。
広い帯域を持つピアノを整理しながら、歌声が自然に前へ出る空間バランスを構築しています。
Piano|土台と透明感の設計
歌声の芯を活かすための “引き算” と、高域の空気感を両立させています。
| バンド | 設定値 | 処理の意図・効果 |
| Low Cut | 75Hz (24dB/Oct) | 不要な超低域をカットし、スッキリした土台に。 |
| LF Shelf | 150Hz / -2.5dB | 低域の膨らみを抑え、重くなりすぎないよう調整。 |
| LMF | 350Hz / -3dB (Q1.0) | 歌声の温かみが一番出る帯域を空けるための引き算。 |
| MF | 1.5kHz / -2dB (Q0.8) | ピアノ特有の「硬さ」を抑え、柔らかな響きへ。 |
| HMF | 4.5kHz / +2dB (Q1.2) | ピアノの明瞭度を補い、キラキラした成分をプラス。 |
| HF Shelf | 10kHz / +2.5dB | 高域の空気感を出し、透明感を演出。 |
| High Cut | 14kHz (12dB/Oct) | 楽曲に不要な超高域のノイズ成分を整理。 |
Vocal Separation|弦巻マキ vs 宮舞モカ
二人の声を完全には重ねず、わずかに重心をずらすことで、それぞれの個性を自然に分離しています。
| バンド項目 | 弦巻マキ(中高域の明るさ) | 宮舞モカ(中低域の温かみ) |
| Low Cut | 120Hz (12dB/Oct) | 100Hz (12dB/Oct) |
| LF Peaking | 220Hz / -2dB / Q1.0 | 180Hz / +1.5dB / Q1.0 |
| LMF | 600Hz / -1.5dB / Q1.0 | 450Hz / -2dB / Q1.0 |
| MF | 2.5kHz / +2dB / Q1.0 | 1.2kHz / +2dB / Q1.0 |
| HMF | 5kHz / +1.5dB / Q1.0 | 3.5kHz / +1.5dB / Q1.0 |
| HF Shelf | 12kHz / +2dB | 8kHz / +1dB |
| High Cut | 16kHz (12dB/Oct) | 15kHz (12dB/Oct) |
こだわりポイント
弦巻マキ
2.5kHz帯域を中心に調整し、透明感のある明るい質感を強調。
宮舞モカ
1.2kHzと低域を補強し、落ち着きと深みのある響きを重視しています。
Positioning|定位と距離感
- ピアノ:Center / -4.0 dB
- 弦巻マキ:L15 / -3.0 dB
- 宮舞モカ:R15 / -2.0 dB
配置意図
二人の声をわずかに左右へ配置することで、隣で並んで歌っているような自然な距離感を演出しています。
3. Reverb Design|空気感の設計
静かな余韻と、歌声を包み込む空間の深さを重視したリバーブ設計です。
| カテゴリ | 項目 | 設定値 |
| Main | Pre-delay / Length / Mix | 35.0 ms / 2.50 s / 1.00 |
| Room | Type / Size / Width / Height | Room / 8.50 m / 1.80 / 1.20 |
| Character | Population / Reflexivity / Dampness | 0.40 / 0.30 / 65.0 % |
| Geometry | Dist / Asym. / Plane | 0.60 m / 0.00 / 0.60 |
セクションごとのリバーブ変化
| セクション | 弦巻マキ | 宮舞モカ | ピアノ |
| A・Bメロ | -18.0 dB | -16.0 dB | -12.0 dB |
| サビ | -14.0 dB | -14.0 dB | -12.0 dB |
| Cメロ | -20.0 dB | -18.0 dB | -12.0 dB |
| ラストサビ | -12.0 dB | -12.0 dB | -12.0 dB |
設計意図
Aメロでは静かな距離感を保ち、
サビでは空間を広げることで感情の解放感を強調しています。
4. Mastering|ダイナミクスの保護
最終工程でも、「響きの呼吸」を損なわないことを最優先に設計しています。
Limiter Settings
- Ceiling:-1.0 dB
- Gain:3.25 dB
- Release:300 ms
設計意図
ストリーミング再生時の歪みを防ぐため、True Peakは -1.0dB に設定。
長めのReleaseにより、ピアノの余韻や歌声の自然な減衰を保護しています。
5. Loudness Metrics|客観的な「響き」の証明


Powered by Youlean Loudness Meter 2
最終測定結果
| 項目 | 測定値 | 音楽的な意味 |
| Integrated Loudness | -16.0 LUFS | 耳への圧迫感を抑え、長時間でも聴き疲れしにくい音量設計。 |
| AVG. Dynamics (PLR) | 15.0 LU | 音を過剰に潰さず、静寂から感情の高まりまでを自然に表現できるダイナミクスを確保。 |
| Loudness Range | 10.2 LU | 静かな場面から感情が広がる瞬間まで、 楽曲全体のダイナミクス変化を自然に保持。 |
| True Peak Max | -1.0 dB | 配信環境におけるデジタル歪みを回避。 |
| Max Reduction | -1.54 dB | リミッターによる圧縮を最小限に抑え、自然な音の呼吸を維持。 |
結び
制作における一つひとつの数値は、単なるスペックではなく、楽曲の「温度」や「距離感」を調整するための設計要素です。
派手な音圧で圧倒するのではなく、
耳を澄ませた時に、静かに心へ届く音でありたい。
そんな「Vocalis Dynamics」の思想が、この記事を通して少しでも伝われば幸いです。